発見された牛乳瓶や時任牧場の写真を手にする時任町会の（左から）三崎さん、坂東さん、三浦さん

　明治から大正・昭和にかけて函館市内で乳製品を製造販売していた時任牧場の牛乳瓶が、市内西部地区で発見され、時任町会（高橋松恵会長）に持ち込まれた。酪農や乳製品の歴史を物語る貴重なガラス瓶はこのほど、同町会から市立函館博物館へ寄贈された。

　時任牧場は、初代函館県令を務めた時任為基（１８４２～１９０５年）が１８７８（明治１１）年に設立した洋式の模範農場。現在の本町、杉並町の電車通りから大森浜にかけて約１６５ヘクタールの広大な土地で、牧草やトウモロコシなどを栽培し、乳牛を飼育。牛乳やヨーグルト、バターなどを販売していた。現在の遺愛女子中学高校や函館中部高校の敷地は、時任牧場の跡地にあたり、１９３１（昭和６）年の町名改正時に誕生した時任町の名前の由来にもなっている。

　今年４月、元町公園近くのガス管工事中、土中から牛乳瓶が見つかり、関係者の手で時任町会に持ち込まれた。厚みのある透明な瓶には、右から左への横書きで「時任農場」「牛乳部」「殺菌」のエンボス（浮彫り加工）の文字が並ぶ。縦書きで、現在の一合を意味する「一、八竕」の文字も確認できる。

　市立函館博物館の学芸員、福田裕二主査は「ガラス自体にむらがあり、気泡が入っており、かなり古い時期のものと見える。文字が右から左の横書きになっているので、戦前のもので間違いない。ほぼ完全な形で、非常に貴重で珍しい。酪農や乳製品の歴史、函館の食文化などが分かる素材になると思う」とその価値を評価している。

　当時の地元紙「函館新聞」の１９２２（大正１１）年５月３１日付夕刊には、時任農場の広告として、６月１日よりゼルシー（ジャージー種）牛乳の瓶を角型から丸型へ変更し、使い捨て方式にするとの予告が確認できる。広告には「今般ゼルシイ牛乳ビンを丸形にし口金は王冠に改め一回毎に新らしきを用ひ一層衛生的に改良致候」と記載。当時の紙面によると、ゼルシー牛乳は一合十銭、角瓶入りのホルスタイン牛乳は一合五銭だった。

　時任町会では、８月に町内の子ども向けイベントで牛乳瓶を披露したが、より有意義に活用してもらおうと同館に寄贈した。同館では牛乳瓶の資料登録を終え、収蔵庫に保管。必要に応じて今後、展示や資料調査などで活用される。

　同町会の文化部長、三浦丈夫さん（７９）は「百年もの間、割れないで無傷で残っていたのは奇跡のよう」、区長の三崎伸夫さん（７３）は「今のガラスと違い、歴史を感じる」と牛乳瓶を見つめてしみじみ。総務部長の坂東信一郎さん（８３）は「町内の歴史をあらためて認識した。これを機に時任町会の由来を周知し、町会の発展に寄与できれば」と期待を込めている。