保存処理のため奈良へ 国立アイヌ民族博物館 苫小牧で発見の丸木舟2隻 本格的調査度 白老
苫小牧市弁天の海岸で2021年に見つかり、白老町の国立アイヌ民族博物館で脱塩、乾燥が進められていたアイヌの丸木舟「イタオマチプ」(板つづり舟)2隻の処理が終了し、文化財の保存修復を手掛ける奈良県の専門機関に向けて10日、トラックで出発した。関係者は「本格的な調査のため、まずは必要な処理を終えて戻ることを願う」と話す。
丸木舟は21年1月27日、流木を拾いに来た苫小牧市民が発見。連絡を受けた同市美術博物館の職員が確認し、1・3キロ東で2隻目も発見した。一隻は全長610センチ、幅64センチ、高さ22センチ。船べりの一部が損壊している以外は完全な状態。2隻目は全長413センチ、幅45センチ、高さ10センチ。破損が進み、右舷側と船首が欠けていた。
国立アイヌ民族博物館に搬入されたのは同年10月。同民族博物館と苫小牧市教育委員会が9月にアイヌ資料の共同研究に関する覚書を締結してからのことで、2年半かけて巨大な水槽で海風にさらされていた舟体から塩分を抜き、木を傷めないための乾燥処理を行った。
保存処理は、奈良県南肘塚町の公益財団法人元興寺文化財研究所が手掛け、アクリル製樹脂を染み込ませるなどのコーティングを施す。今後の年代測定や樹木の同定などの調査に耐え得る強度を高めるためで、同民族博物館の大江克己研究員は「(保存処理には)少なくとも2年はかかる」とみる。
搬出では、美術品を専門に運搬する業者の従業員約10人が、舟を1隻ずつ保護紙やウレタンなどで梱包(こんぽう)してから木枠で保護し、トラックで出発した。函館港から青函フェリーで青森港まで運ぶ以外は、陸路で輸送される。市美術博物館で考古学を担当する岩波連学芸員は「ほぼ完全な形で残る2隻からは今後アイヌ民族の暮らしの実態究明につながるヒントが得られるかも知れない」と保存処理を終える日を心待ちにしていた。
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