知床観光船事故のカズワン 船体を簡易倉庫で覆い〝封印〟へ
【網走】2022年4月23日に知床沖で沈没し、海上保安庁が同年6月から網走港に〝一時保管〟している小型観光船「KAZU I(カズワン)」を覆う工事が始まった。今月中に完成する予定で、外部から見ることができなくなる。
事故後、網走港へ
カズワンは昨年4月23日、乗員乗客26人を乗せ、ウトロ港を出港。その後、天候の急変に見舞われ、知床沖で沈没した。
事故直後から海保や警察、漁業者、民間ボランティアらが懸命な捜索を行ったが、生存者の発見には至らず、これまで20人の死亡が確認され、6人が依然、行方不明となっている。
行方不明者捜索、事故原因究明に不可欠な船体は事故発生7日後の29日、救助要請があった近くの海域の水深約120㍍の海底で見つかった。
その後、民間専門業者の作業船「海進」が海底から引き揚げ、網走港へえい航した。 えい航中に1度、船体を水深180㍍の海底に落下させるなどのトラブルも起きたが、5月27日に網走港へ到着した。
網走港では、第4ふ頭で船体捜索や調査のほか、運航会社「知床遊覧船」の桂田精一社長が立ち合い、現場検証が行われた。
海保は初期段階の捜査終了後、事故の証拠品であり、今後の捜査に不可欠な船体の一時保管を決めた。
網走市などの関係機関と協議し、同港港湾区域内の民間施設敷地内に保管場所を確保。昨年6月1日から〝一時保管〟している。
衆人環視の一時保管
網走港では港湾敷地内の民間施設横に、一時保管場を確保した。保管場所はチェーンで立ち入り禁止とし、船体はブルーシートで覆い、簡易的な塀で、囲っている。
だが、国道244号から約100㍍の場所で、国道から船体上部は〝丸見え〟の状態。風の強い日などにはブルーシートが部分的にはがれ、船体の一部をはっきりと確認できる日もあるなど、衆人環視となっている。
高台にある市台町地区からは、ブルーシートに包まれた船体の全容を見ることができる。
網走での保管が始まったころは、市民や観光客が献花に訪れ、船体に向かって祈りをささげることもあったが、最近は放置されている状態だった。
また、一部で興味本位のやじ馬的な人も訪れ、船体をバックに記念写真を撮影するなど、不適切と思われるシーンもあった。
地域の観光業界からは「網走のイメージダウンにつながらないか」と保管を懸念する声が上がっていた。
豪華客船などの寄港地として、人気の網走港だが、飛鳥や日本丸、ダイヤモンドプリンセスなどが停泊する第4ふ頭から直線で400㍍ほどの位置にあり、客船の船室から〝丸見え〟の場所であった。
客船運航会社の関係者は「楽しい船旅の途中、デッキや客室から事故のあった船が見えるのはイメージが悪い。網走港への寄港を敬遠せざるを得ない」などの声も出ていた。
事件の究明、捜査には当時の海域の状況や船体状況の解明、沈没原因の特定など、複雑に絡み合う複数の事象をお解き明かす必要があり、専門家によると「早くても数年はかかる」とみられている。
倉庫設置へ
網走港での一時保管を開始し、もう少しで1年半を迎える中、地元では保管が数年に及ぶ長期化の懸念が出ている。
社会の関心は徐々に薄らいでいるが、1年、1年半、2年などの節目では、テレビや新聞の報道があると見込まれるが、そのたびに知床観光船沈没事故がクローズアップされ、知床観光のイメージ悪化やカズワンの保管場所が話題に上る。
網走市などの関係機関は、カズワンを一時保管する海上保安庁らに対して「衆人環視のカズワンを、屋内施設で保管、保全してほしい」と要請を続けている。
海保はカズワンの一時保管が長期化する見込みにある中、網走市などからの要望や証拠品の適切な保全に向け、船体の上部などを見ることができる現在の簡易障壁ではなく、屋根を付けたテント倉庫を設置して保管することを決めた。
工事は10月上旬に開始し、今月いっぱいでテント倉庫が完成する見通し。屋根を設置することで、台町などの高台から見下ろすこともできなくなり、カズワンは屋内での保存、保全となる。
テントの簡易倉庫とはいえ、屋内での保管となることで、風雪から守ることができるほか、ブルーシートの飛散、劣化で船体が露出する心配もなくなり、網走を含むオホーツク圏のイメージに対する影響も緩和されることが期待されている。
知床観光船沈没事故は、ずさんな運航管理だけではなく、国の検査体制の甘さなど、数多くの問題が浮上している。
いまだ発見されていない6人の手掛かりや事故原因の究明、国内で2度と同じ事故を起こさない体制の構築など、これからの安全、安心の観光が築かれていくことが求められている。
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