米潜水艦による雷撃によって恵山岬沖で沈んだ商船２隻について調査した浅利さん

　函館空襲を記録する会の浅利政俊代表（９０）＝七飯町＝は１９４３、４４（昭和１８、１９）年に恵山岬沖で米海軍潜水艦の攻撃によって沈没した２隻の日本商船を調査した。２隻のうち、４４年５月８日に沈んだ鋼材運搬船宮崎丸（３９４３トン）は九州出身者が多く、犠牲者の大半が１９歳以下の少年だった。浅利さんは道南の海域で起きた歴史の継承と亡くなった乗組員の慰霊を訴えている。

　リポートは「ミッドウェー海戦後米海軍潜水艦の北日本海域の侵攻で撃沈された日本商船の調査　恵山沖で沈没した大文丸と宮崎丸」と題した。ミッドウェー海戦（４２年６月）の勝利で制海権を得た米軍は、日本近海でも潜水艦攻撃を進めた。海上輸送を担うため戦時動員された民間船舶も攻撃の対象となり、終戦までに６万人余の船員が死亡したと言われる。

　浅利さんは国立国会図書館収蔵の戦没船員名簿を調査。４３年８月３０日に沈んだ大文丸（６５８１トン）では司厨部の当時１４歳９カ月の少年を含む２人の名前が分かった。横須賀海軍警備隊の戦闘詳報には、同船は室蘭で石炭を積載して神奈川・川崎に向けて航行中で、海軍下士官のほか船員４人が行方不明、７人が負傷したとある。宮崎丸では２９人の犠牲者氏名をまとめ、１５人が１５～１９歳の少年、２０代も７人と若者が多く、鹿児島県や福岡県など２１人が九州出身者だった。指定船行動表によれば４４年は主に福岡・八幡と室蘭の間で運航していた。

　当時、椴法華国民学校（現函館椴法華小）に通っていた函館市の唐戸晃さん（８８）はこの２隻の沈没を目撃している。唐戸さんの私家本「学林物語」によれば、大文丸は「大音響とともに水柱と火柱が空高く上がり、二時間ほどで赤錆（さび）の巨腹を見せて裏返り」とし、宮崎丸は「二本の魚雷を受けて船体が真二つに折れ、マストが空中に飛散し、あっという間に沈没」と描写した。

　宮崎丸を攻撃した米海軍潜水艦トートグの哨戒記録では魚雷は船の前方と後方の２発当たり、「最初は煙と水しぶきに包まれ、その後船首を空中に、船尾が水中に沈むのが確認された」とあり、唐戸さんは「轟沈だった」と証言する。浅利さんは両船の沈み方や犠牲者数の違いから「大文丸はゆっくりと沈む間に逃げる時間があったのだろう。短時間に沈んだ宮崎丸には火薬の精度が上がったＭＫ１４魚雷が使われたのでは」と推察する。

　唐戸さんの自宅近くの浜では魚雷が不発のまま打ち上がったこともあり、沿岸部は潜水艦の脅威と隣り合わせだった。両船が沈んだ際、村民は危険を顧みずに漁船を出して救助に当たったといい、唐戸さんは「警防団の人たちが船に負傷者を乗せ、旅館に運ばれた」と話す。

　浅利さんは今後、青森県の太平洋側で４２年８月に沈んだ函館との関わりがある蟹工船・美福丸の調査を進める。合わせて恵山岬沖の史実を地域で広く伝え、慰霊をしていく。浅利さんは「当時の様子を知る人がいれば情報を寄せてほしい。（宮崎丸の話は）九州の人たちにも関わりを知らせて、慰霊していきたい」と話している。