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網走タイムズ

網走で医療MaaS始まる 移動型医療専用車で診療 先進的に道内初の実証運行

網走市が導入した医療マースの車両「IKI MaaS」の愛称は「いきまーす」。患者のもとへ「行く」と「生き生きと暮らす」の「いく」から命名した

 【網走】市は、地域の医療体制の充実と持続的発展を目指し、網走厚生病院を中心とする地域医療機関と連携して1日、道内初の移動型医療サービス「MaaS(マース)」の実証運行を開始した。

 マースは、医療機器を搭載した専用車両が患者宅を訪問し、車両内に設置したインターネット通信会議システムで、病院にいる医師がオンライン診療を行うもの。

 医師は車両内のカメラとモニターを通じて患者の問診を行い、乗車している看護師が血圧測定や遠隔聴診器などで、医師の診療をサポートする。

医療マースでのデモ診療を受ける水谷市長。医師との会話、遠隔聴診器の精度などにも問題なく、実証運行に期待が高まった

 マース導入で、医療の選択肢が増え、慢性疾患などを抱える通院が困難な患者や医師の負担が軽減され、より充実した地域医療の〝新しいかたち〟が形成される。

 実証運行開始の背景には、地域医療を担う医師不足の深刻化がある。

 医師数や人口、地理的条件などから算出する医師偏在指標(厚労省、2020年)によると、北網医療圏の指標は141・5で、全国平均の239・8、全道平均の224・7を大きく下回っている。

 これは、全国335医療圏中284位、全道21医療圏中15位であり、医師不足による医療のひっ迫を回避しながら、市民に必要な医療を提供し続ける「新たな診療手段の構築」の必要に迫られている。

 市は急速な高齢化に伴い、慢性疾患を抱える高齢者に対する医療ニーズが大きく拡大している。

 市民の有病者の病名(市健康アンケート結果、20年)によると、高血圧は全体の43・0%で、脂質異常は14・8%、糖尿病は12・6%と続き、慢性疾患がベスト3を占める。

 このほか、こころの病は6・7%、消化器系は5・4%、心疾患は4・0%、がんは3・6%などとなっている。

 また、40―74歳の59%が「有病」と答え、75歳になると79%が「有病」と認識しており、全国的な傾向と同様に高齢者の有病率が高まっている。

 マースは従来の外来診療、訪問診療、訪問介護などと合わせて医療を提供する1つの〝選択肢〟であり、市は安心して古里で暮らしていける体制の構築を目指し、実証運行に踏み切った。

 デジタル技術の活用で、医師不足や高齢者医療の課題、通院負担の軽減などが図られると期待されている。

 現時点で制度上、マースによる診療は、医師の定期的な診療が必要な慢性疾患に限り行うことができる。

 また、連続したマース診療は行えず、1度、マースで診療を受けた場合、次回は病院で実際に医師による診療を受けることが義務付けられているが、通院回数の削減につながる。

 本年度の実証運行は、地域センター病院で災害拠点病院でもある網走厚生病院(中野詩朗院長、標榜科15科、病床数247床)の協力を得て、実施する。

 まずはマース診療の実効性や車両の運行状況、受診者の満足度調査などを進め、運用システムの確立を目指していく。

 24年度以降は、医師会などを通じて、参画医療機関の拡大を図っていくほか、ヘルスケアや医薬連携などの多目的利用実証に着手する。

 マース診療による受診者の拡大を図り、通院離脱者の減少やマース利用率の向上、医療関係者の働き方改革などを進める。

 早ければ24年度中に実証運行を実装運行に切り替え、25年度には周辺自治体との広域運用協議を行う方針。

 医師の診療のほか、調剤薬局との連携により、オンライン服薬指導などを実施する「医薬連携」を行い、配送事業者による薬剤配送で、病院にも、薬局にも行かずに、受診できる体制を目指す。

 マース車両の多目的利用として、移動型のモバイル保健センターとして、特定保健指導、受診勧奨などにも取り組むほか、スポーツイベントなどで、モバイルメディカルケア車両として活用する。

 また、医薬連携に加え、行政とも連携した「行政マース」も進め、マイナンバーカードの発行や住民票などの証明書発行など、アウトリーチ型の行政サービスにも発展させる構想もある。

 実証運行を行う厚生病院の中野院長は「地方は、自家用車が移動手段に中心にあり、高齢者の移動負担は大きい。必要な医療を適切な頻度で、受けることができず、症状の悪化につながる恐れもある」と指摘。

 その上で「移動型医療サービスは地方において、有効なサービスであり、今後の実証運行により、メリットや課題を整理し、参画する診療科などの検討を進めていきたい」と期待を寄せた。

 また「実際に医師に会うことで安心感を持たれる患者さんもいる。WEB上の診療だからこそ、同乗する看護師の丁寧な対応が必要になるだろう」とも語った。

 実際に実証運行で診療を担当する横山良司副院長は「患者との会話、遠隔聴診器の音も明瞭。慢性疾患で症状が安定している患者さんの一部診療補助行為を含め、有効だろう」と話している。

 その上で「対面診療に比べて、患者から得られる情報が少なくなるデメリットがあるが、看護師の付き添いで心配は解消されるだろう。患者側は移動や待ち時間の経済的、身体的負担が軽減されるメリットは大きいと考える」と話している。

 水谷洋一市長は「網走は地域医療を担う医師不足が深刻であり、今後、ますます偏在化する恐れもある。マースの導入で患者や医師の負担が軽減され、誰もが安心して暮らしていける地域づくりに貢献できると考えている」と力を込めた。

 医療マースは本年度、網走厚生病院を受診し、症状が安定している患者で実証運行を行う。医師、看護師は厚生病院が担い、車両の運転は網走ハイヤーのプロドライバーが行う。

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