松前桜がつなぐ日英の交流物語、新たな1ページ刻む 植樹進める英関係者来町 浅利さんと親交深める【松前】
【松前】英国の貴族所有の庭園やオックスフォード大学の植物園で「松前桜」を植樹する計画が進んでいる。1993年に七飯町在住のサクラ研究家、浅利政俊さん(92)が英国に贈った56種が定着し、30年を経て多種多様な咲き方をする花が人気を集めているためだ。5日に英国の関係者がルーツを知るために松前公園を訪れ、浅利さんや同町関係者と交流を深めた。日英両国をサクラが結ぶ新たな物語が始まっている。
来町したのは同大学植物園ハーコート・アーボリータムのベン・ジョーンズ園長とロンドン在住のジャーナリスト、阿部菜穂子さんとポール・アディソン氏。同植物園は英国最古の400年の歴史を持ち、今後の3~5年間かけて数百本のサクラを植える計画があり、松前桜も取り入れるという。ジョーンズ園長は「松前にはたくさんのサクラがあって素晴らしい、どの品種を植えるかはアドバイスを受けて決めていきたい」と話す。
今回の交流のきっかけは阿部さんが2016年に出した著書「チェリー・イングラム 日本の桜を救ったイギリス人」(岩波書店)。英国におけるサクラ研究の第一人者コリングウッド・イングラム(1880~1981年)の功績を紹介し、19年に加筆して英語版を出版した。
同著によると、イングラムは1919年に初代クランブルック伯爵が建てた邸宅「ザ・グレンジ」を購入。庭にあったサクラの大木に魅了されて研究に没頭。わずか数年のうちに100種類を超える品種を集めた。学術的な研究も進め、庭からは新たな品種が誕生。育てたサクラは英国内へ広まった。1926年の来日時には日本ではサクラの多様性が失われつつあることに危機感を持った。東京でサクラを育てていた舩津静作氏から見せてもらった掛け軸に描かれた花がザ・グレンジにある「太白」だと気づき、数年間の試行錯誤の末、穂木を日本へ里帰りさせた。
一方、松前公園に植えられた数多くの品種を生んだ浅利さんは93年、英国の関係者から松前桜を購入したいと打診を受けた。函館俘虜収容所の研究など、太平洋戦争中の英国人捕虜問題への関心を持ち、償いと平和への思いから58種を無償提供し、56種が定着し、王立公園やザ・グレンジにも植樹された。英国では紅豊(べにゆたか)や松前富貴(まつまえふうき)などが人気といい、阿部さんは「英語版の反響が大きく、うれしい広がりを見せている。英国には浅利先生のファンが多く、有名人です」と話す。
今回の来町はかなわなかったが、英貴族クランブルック家の次期伯爵ジェイソン・ゲイソン=ハーディ卿もその一人。同著でイングラムとクランブルック家との奇縁を知り、浅利さんの平和への思いにも共鳴。今年2月にはイングラムと浅利さんの功績をたたえ、サフォーク州グレート・グルマム村で「松前桜公園」の造成を始めた。植樹は浅利さんの助言を受けて進めているという。
松前公園では、浅利さんが今回の来町に合わせて、1863年に起きた英国船バルク・エゲリア号の遭難事故で乗組員の救助に尽力した藩主松前崇広をたたえる記念碑を建立。石山英雄町長ら町の関係者とともに除幕式が開かれ、国際平和や友好を誓った。園内では6日に控えるチャールズ国王の戴冠式を祝して、バラ園に「愛」「平和」などの名の3本のバラを植樹。浅利さんは60年ほど前に国立遺伝学研究所(静岡県三島市)から譲り受けた穂木から育てた太白をはじめとするサクラを案内し、「太白は日英の宝。サクラを通して人と人とが交流することほど素晴らしいことはない」と花を愛でた。
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