あの時の記憶…1990年、野球場開場で名球会と対戦【帯広】
王シフト、2万人沸く
1990年6月24日 地元選抜の一員・佐藤肇さん「まばたきさえもったいなく」
「世界の王さんをはじめ、野球少年の頃に憧れた名だたる選手と同じフィールドでプレーできる喜びがあった。まばたきすらもったいないと感じた」
1990年6月24日、帯広の森野球場のオープンを記念して地元選抜チーム「帯広メイクイーンズ」と「名球会」の親善試合が行われた。十勝の新たな球史を刻むこの一戦で、帯広メイクイーンズの三塁手を任されたのが当時27歳の佐藤肇さん(HS-WORLD社長、十勝ベースボールコミュニティ理事)。佐藤さんはあの時の試合を鮮明に記憶している。
同球場は老朽化した帯広市営緑ケ丘球場に代わる新スタジアムとして建設された。2万3000人を収容でき、磁気反転式のスコアボードを導入した当時としては道内屈指の球場の誕生だった。
親善試合は同球場のこけら落としイベント「宝くじスポーツフェア・あなたの街に名球会がやってくる」の一環。打者は2000本安打以上、投手は200勝以上の達成が入会条件の名球会からは王貞治さん、江夏豊さん、山田久志さん、若松勉さんら往年のスーパースター12人が来帯した。
350チームから
対する帯広メイクイーンズは故丸山賢吉さん(元北海道軟式野球連盟帯広支部長、当時65歳)が監督、嘉会悟さん(元六花亭製菓監督、当時42歳)が主将を務め、十勝の約350の軟式野球チームから選抜された精鋭20人で構成。試合の約1カ月前に結成されたチームだったが「5~6回は帯広平和球場で練習したと思う。スターと対戦できる千載一遇のチャンスを前にみんな真剣に調整していた」と佐藤さんは振り返る。
いよいよ迎えた決戦は名球会が3点を先制。追う帯広メイクイーンズは三回、四回に1点ずつ返すも反撃及ばず2-3で惜敗した。訪れた2万人のファンが最も沸いたのは「王シフト」を敷いた瞬間だった。佐藤さんが提案し、内、外野手がそれぞれ極端に右方向へ移動。フィールドの左半分はがら空きとなった。しかし、この作戦は裏目に。王さんは左翼方向に強打を放ち、一気に三塁へ到達した。佐藤さんが思わず「流し打ちですか」と聞くと、王さんは「違うよ、合わせたんだ。ナイスバッティングだろう」と応えたそう。
笑顔の江夏さん
江夏さんとの会話も印象深い。初回の守備についた際、三塁ベース上に仁王立ちで待ち構えて「君がサードか」と江夏さん。緊張しながら佐藤さんが「僕がサードです。よろしくお願いします」と返すと笑顔で「そうか、頑張れよ」と、そのまま三塁コーチャーボックスに入ったという。
現在も野球用品専門店「年中野球」を経営、指導者として後進の指導に当たるなど十勝の野球界をけん引する佐藤さん。「30年以上前の試合だが細かい会話まで脳裏にきっちり刻まれている。あれだけのスター選手と試合ができたあの日は忘れることのない思い出」と当時を懐かしみ、「子どもたちに『野球は楽しい』と思ってもらえるように活動を続けていきたい」と話す。
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