ヒブナの緋色は金魚の色 100年前に交雑、起源解明【釧路】
ヒブナはなぜ赤い?―。理化学研究所の三品達平研究員や釧路市立博物館の野本和宏学芸員らを中心とした共同研究グループは、釧路市春採湖に生息する緋色のフナ「ヒブナ」が、約100年前に金魚と野生のフナが交雑したことで発生したとする研究結果をまとめた。論文はアメリカの国際学術誌に掲載され、野本学芸員は「長く市民に親しまれてきた生き物。今後も調査、研究と保護に努めていきたい」と話している。
研究グループは2014年、ヒブナの人工増殖の手法確立などを目的とした調査を開始。遺伝子を調べたところ、35匹中27匹から金魚のDNAが確認されたという。想定外の結果だったため、野本学芸員がヒブナの生息地として国の天然記念物にも指定されている春採湖の記録を調べたところ、1916年に大正天皇即位を記念して春採湖にワキン3000匹を放流し、6年後には緋色のフナが初めて発見されたことが分かった。
春採湖のヒブナはクローン繁殖と呼ばれる「雄の遺伝子が子に受け継がれない種」が多数を占めており、金魚のように「雄と雌の遺伝子を受け継ぐ種」とは交雑せず、ギンブナの突然変異によって発生したと考えられていた。しかし、調査結果は金魚の放流記録がある春採湖と網走川のヒブナから金魚のDNAが発見され、他地域のフナからは見いだされなかったことなどから、ヒブナは金魚の交雑によって生み出されたと考えて矛盾がないと結論付けている。
従来、雄の遺伝子を受け継がないクローン繁殖種は遺伝的多様性が乏しく、進化の袋小路と考えられてきたが、春採湖内のフナは100年前に放流された有性生殖する金魚の遺伝子を取り入れ、その進化過程が視覚的な特徴として表れるという象徴的な事例となった。なお、文化庁は「天然記念物として学術的価値が失われたわけではなく、取り消しになることはない」との見解を示している。
論文の筆頭責任著者を務めた三品研究員は「他の脊椎動物にはない、特殊な交雑をしたという象徴的な事例。今後さらに研究を深め、クローン繁殖の進化のメカニズムなどを明らかにしていきたい」と話していた。
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