ロシアで磨いたバレエ伝えたい ウクライナ侵攻で帰国「芸術の世界に国境ない」
バレエの本場ロシアでダンサーとして活躍していた帯広市出身の佐々木麻菜さん(27)が、同じくダンサーでロシア出身の夫ディムチコフ・ティムールさん(25)と共に、市内の「エスバレエスタヂオ」で講師に就任した。ロシア情勢が不安定となり、日本への帰国を選択した2人は、日本でバレエの素晴らしさを伝えられる喜びをかみしめている。
2人はロシアのモンゴル国境に位置するブリヤート共和国の国立オペラ・バレエ劇場で、ソリストを務めるなど活躍していた。「くるみ割り人形」でダブル主演を務めるなど信頼関係を深め、自然と結婚を考えるようになった。
結婚という人生の節目を迎えるに当たり、このままロシアで踊り続けるのか、それとも日本に戻るのか、2人の今後をシーズンが終了する7月までに決めようと考えていた矢先、ウクライナ侵攻が始まった。
佐々木さんは「侵攻に賛成もできず、ただただ『どうして』と疑問だった」。国立劇場で働くダンサーは「公務員」の立場であることから、侵攻を続ける国から給料を受け取ることにも、どこか違和感を覚えるようになった。世界からの経済制裁や良くないうわさ話に不安を覚える日々。「次のステップに進む時期なのかもしれない」。そう考えるようになった。
日本政府から退避勧告が出されたこともきっかけとなり、「取りあえずビザを申請し、下りたら日本に戻ろう」と決心した佐々木さん。ディムチコフさんは最初は日本へ行く気はなかったが何度も話し合い、「2人が一番納得する道を選んだ」という。
思いの外スムーズにビザが下り、2人は4月末に無事帰国。5月に帯広市に婚姻届を提出し、心機一転、7月に佐々木さんの母小百合さん(54)が主宰するエスバレエスタヂオの講師に就任した。
海外に住む経験は初めてというディムチコフさんだが、「日本人の相手に対する心遣いや、生活の中で自我を出さないところなど、感覚が自分に合っている」と話し、佐々木さん家族の一員としてすでに溶け込んでいる様子。指導では少しだけ話せる日本語も使いながら、生徒からも早速「ティムール先生」と呼ばれ親しまれている。
社会情勢が一つのきっかけとなり日本での生活を決めた2人。「コロナがなければ、情勢が安定していたら、もっとたくさんの選択肢があったのかもしれない」。そう思うこともあるが、今、日本に帰ってきたことに後悔はないという。
2人は「たくさんの役をいただき、重要なツアーにも参加させてもらった。(ロシアの)劇場には感謝しかない」と話し、今後はその経験を生かし、「自分たちが本場で学んだ技術や表現力を伝えたい」という強い思いでいる。
佐々木さんは指導だけでなく「ダンサーとして日本の舞台に立ちたい」と意気込む。「何百年と続くロシアバレエの素晴らしさは何も変わらない。芸術の世界に境界はありません」と真っすぐな目で語った。ディムチコフさんも「これから日本のバレエ界に貢献できることはうれしい」と胸を弾ませている。
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