血液がんを乗り越えスポンジテニス指導員として活躍する柴口さん

　室蘭市で長年、スポーツ指導員として振興に寄与してきた柴口裕香里さん（６０）＝石川町＝が、血液がんの闘病生活を乗り越え、スポンジテニス教室の指導員として復帰した。柴口さんは「活動を続けることにより、病で苦しんでいる人に勇気を与えていきたい」と、新たな気持ちを胸にしている。

　４月からスタートした室蘭市スポーツ協会主催のスポンジテニス教室で、初心者に基礎を指導。ラケットの振り方やルールを説明し、競技の魅力を伝えている。

　福岡県出身。親の転勤により青森県、愛知県などで育った。中学、高校ではバスケットボール、社会人になってからはテニス、バレーボールを始めた。３４年前、結婚を機に来蘭。約１０年間、スポンジテニスなどの指導員や室蘭市体育協会（現室蘭市スポーツ協会）の職員として活動してきた。

■悪性リンパ腫
　元気にスポーツを楽しんでいた柴口さんの体に異変が起きたのは２０１３年。疲れが取れず、発熱が続くようになった。１年後に喉に腫瘍ができ医師にかかると、血液がんの悪性リンパ腫であると診断された。

　がん進行度はステージ３Ｂで、治療をすれば７割ほどの人が寛解するといわれた。命を落とす危険がある病に不安を隠せなかったが「大好きなスポーツを続けるためにも闘うしかない」と決意。札幌市の病院で闘病生活を送った。

　免疫力が落ちていたため、面会や外出の許可が下りず、孤独との闘いだった。抗がん剤の副作用により、口の中がただれ食事が取れず、吐き気やだるさのせいでベッドから起き上がれなかったが「生きたい」という気持ちを強く持った。

■入院生活２度
　６カ月間入院し症状を抑えてから自宅療養を続けたが、１５年に再発。再入院を余儀なくされた。

　苦しむ柴口さんの支えになったのは、家族、医療関係者、そしてスポーツを通して知り合った仲間の存在。電話などで「また一緒に体を動かそう」と激励を受ける度「もう一度みんなとスポーツを楽しみたい」と奮い立ち、医師にもその思いを伝え続けた。

　２度目の入院生活では幹細胞移植をするために７カ月間闘病。無事に治療が進み、医師から「５年間ほど様子を見て再発しなければ、根治に近い状態」と告げられ退院した。自宅に戻ってからは衰えた筋力を鍛えるため体を動かしたが、けがばかりした。それでも再びスポーツに携わるため努力を惜しまなかった。

■励みになれば
　昨年の１２月、退院から５年たち、根治したと診断されていた柴口さんに、室蘭市スポーツ協会から「ぜひ指導員として復帰しないか」と声がかかった。「自分が必要とされている」という喜びを感じながら、家族と話し合った上で承諾。指導者としての責任感を持ち健康管理を怠らず、健康的な生活を心がける日々を過ごし、舞い戻ることができた。

　柴口さんの今年のスローガンは「不屈」。定期検査を受けながらも、困難に負けず人生を輝かせたいと意気込む。「病気で苦しむ人の励みになれるように、受講者の前に立ち続けたい」。たくましくラケットを握りながら、これからもスポーツによって育まれる親交の大切さを伝えていく。