新井満さん死去 「千の風になって」手掛ける【七飯】
【七飯】名曲「千の風になって」の訳詞・作曲を手掛けた七飯町在住の新井満さん(あらい・まん、本名・みつる)が3日午前8時46分、誤嚥(ごえん)性肺炎のため函館市内の病院で亡くなった。75歳だった。葬儀・告別式は近親者のみで行う。
新井さんは1946年、新潟県出身。上智大を卒業後、大手広告代理店の電通に勤務。歌手、作家としても活動し、77年にCMソングにもなった「ワインカラーのときめき」がヒット、88年に小説「尋ね人の時間」で芥川賞を受賞した。
今から30年ほど前に大沼に別荘を構え、新潟の幼なじみに贈るため「千の風になって」を訳詞・作曲。テノール歌手の秋川雅史さんらによって歌い継がれ、2007年に日本レコード大賞作曲賞を受賞した。「千の風」誕生の地となった大沼のPRにも協力的で、10年に七飯町に移住。20年4月に開校した義務教育学校「大沼岳陽学校」の校歌の作詞・作曲を手掛けるなど、地域での関わりも深かった。
新井さんの妻・紀子さん(74)はホームページで「新井満は風になりました。いま、千の風になって日本中、世界中、宇宙中を自由に吹き渡っていることでしょう。お香典もお花もお供えもいりません。風になってあなたのもとへ訪れたときには『元気にやっているよ』『頑張っているよ』と声をかけていただければ喜びます」とコメントした。
■名曲誕生に大沼の「風」 野外劇テーマソングも 地域から惜しむ声
七飯町大沼在住の作家、新井満さんの訃報を受け、道南の関係者にも惜しむ声が広まった。七飯町で誕生した「千の風になって」以外にも、函館野外劇のテーマソング「星のまちHakodate」、石川啄木の短歌を主題とした曲など、地域と深い関わりを持つ作品も手掛けた。
作者不詳の英語詩を翻訳した「千の風になって」は新井さんが住んだ大沼地区を吹き渡る風をイメージして作曲した。新井さんの提案もあって2008年に大沼湖畔に「名曲誕生の地」のモニュメントを設置。09年からは七飯町と新井さんの出身地の新潟市、テノール歌手、秋川雅史さんの出身地の愛媛県西条市の3市町で「千の風サミット」を開催した。
11年3月の東日本大震災直後には自身が呼び掛け人となって町内でチャリティーイベントを開催。1964年の新潟地震で被災した経験を重ねた。「千の風は死者が生者に送る『わたしの分まで元気に生きて、いつまでも見守っているよ』という応援の歌」と、被災地にエールを送り、11年秋には岩手県陸前高田市の「奇跡の一本松」をモチーフとした詩集「希望の木」を出版し、復興を後押しした。
数多くの作品や行動で地域に貢献し続けた新井さん。親交を結んだ七飯町の中宮安一町長(67)は「突然の訃報に驚きと悲しみでいっぱい。7月にお会いしたときに一緒に写真を撮り、とても喜んでおられたのが最後になるなんて。心からご冥福をお祈りします」としのんだ。七飯大沼国際観光コンベンション協会の川村晃也会長(62)は「七飯町、大沼を盛り上げてくれた方だった。新井さんが残してくれた思いを引き継いでいきたい」と話した。
五稜郭公園で毎年夏に開催する函館野外劇では、新井さんが手掛けたテーマソング「星のまちHakodate」を2003年から歌い続けている。公演初日には毎年のように新井さんも会場を訪れてあいさつするなど、出演者や来場者と交流を重ねた。
NPO法人市民創作「函館野外劇」の会の中村由紀夫理事長(72)は「野外劇のシンポジウムで『千の風-』もいい曲だが、『星のまち-』も負けず劣らない函館のテーマソングと申し上げたことがある。突然のことで残念でならない」と惜しんだ。
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