高級宿、開業ラッシュ 部屋数限定 富裕層向け【十勝】
十勝管内では近年、高級志向の宿泊施設が相次いで開設、計画されている。その多くは富裕層をターゲットとし、限定した部屋数で、自然や景観を生かした設計になっているのが特徴。コロナ禍でも「プライベート空間が保持できる」などと一定の支持を得てきた。年間を通じた安定稼働などの課題も一部で聞かれるが、インバウンド(訪日外国人旅行者)需要など、観光市場の復活で今後の利用増が期待されている。
全室が「はなれ」 十勝川温泉
十勝川温泉(音更町)に昨年8月オープンした高級旅館「清寂房」(せいじゃくぼう)は、5万6000平方メートルの敷地に3443平方メートルの平屋が建つ。全24室が広さ50平方メートル以上、大自然の中にたたずむ「はなれ」をコンセプトに、源泉掛け流しの十勝川モール温泉を引いたヒノキの露天風呂や庭などが配備されている。
同旅館は千歳市でビジネスホテルなどを展開するタスクMホールディングス(千歳市、石村圭史社長)が、ホリデーイン十勝川跡に建設。世界的な賞を複数取っている建築家小西彦仁氏(ヒココニシアーキテクチュア)が建築設計・インテリアデザインを手掛けた。
直近は1泊1人通常7万円台から(時期で価格変動あり)で、年末年始は同10万円超の料金だったが、同社によると、稼働率は3~8割。3月からゴールデンウイーク前まで1日3室、地元客限定で規定宿泊料の30%引きキャンペーンを企画している。増山己記女将(おかみ)は「特別な時間を提供できるよう、接客をさらに高めていきたい。十勝産食材を使った創作和会席は季節ごとに変わる。まずは地域への認知も上げたい」としている。
エレゾ社が運営 豊頃町大津
豊頃町大津の宿泊施設「オーベルジュ エレゾ エスプリ」は昨年10月開業。エゾシカの狩猟から解体、加工品開発、飲食を一気通貫で手掛けるELEZO社(豊頃)が運営する。1日最大3組の宿泊に限定し、1人5万5000円(1棟2人利用の場合)、今月もすでに予約はほぼ埋まっている。宿泊客は道外が6~7割を占め、同社は「海外旅行に行きづらい中、日本の良さを再認識する人も多い」とする。
同社が東京で展開するレストラン利用客がファンとなり、宿泊につながる例も少なくないという。「エスプリはラグジュアリー(高級)ホテルといった位置付けとは異なるが、食を突き詰めて知りたいと感じている人の心を捉えているのでは」とみている。
1棟1泊20万円も 中札内
地方創生ベンチャー・そらグループのキャピタル・ゼンリン(帯広市、米田健史社長)は、長年営業してきたグランピングリゾート「フェーリエンドルフ」(中札内村)のコテージ全棟を改装し、2021年にオープンした。
また、新たにVIP向けのラグジュアリー・コテージもこれまでに2棟建設した。ヨーロッパのロココ調など豪華な造りで、宿泊する人数にもよるが、食事込みで1棟1泊約20万円(時期で変動あり)。米田社長は「帯広空港から15分のアクセスの良さから本州の富裕層を取り込める。十勝に目が向くことで、地域経済にもプラスになる」と説明する。
今春には敷地内にVIP優先レストランの新設を計画しており、近く着工する予定だ。建設場所の周囲は森林などの自然に囲まれている。「インバウンド需要が復活したことで、都市部や観光地の高級宿が人気となり、国内の富裕層が静かな地方の高級宿に流れる例が増えている。勝機はある」とも話している。
他にも、宇宙開発などを掲げている大樹町内では、キャリオ技研(名古屋市)のグループ企業・団体が、ロケットの打ち上げを望むことができる富裕層向けの小規模ホテルを建設中で、今春のオープンを目指している。
自然や地方注目「伸びしろある」 日銀帯広・鈴木所長
経済情勢に詳しい日本銀行帯広事務所の鈴木正信所長は「新型コロナウイルスを契機に、より自然や地方への観光ニーズは高まっている。十勝については資源がそろっており、観光地としての伸びしろもある」と話している。
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