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函館新聞

聖ヨハネ教会ゆかりの足踏みオルガン、78年ぶり「帰郷」 12日に聖堂コンサート【函館】

修復を終えて聖ヨハネ教会に〝里帰り〟中のリードオルガン

 20世紀初頭の米国製で、1945年8月の太平洋戦争終戦直前まで函館聖ヨハネ教会(函館市元町、上平更司祭)にあったリードオルガンが、78年ぶりに同教会に里帰りした。同教会で長年オルガン奏者を務めた故吉岡幸(こう)さん(1912-2001年)が所有し、市内で保管していたものを家族が修復した。12日には聖堂コンサートを開き、時を経て取り戻した豊かな音色を響かせる。

■故吉岡さん家族が修復

 米ケーブル社製で「シカゴ・コテージ」の銘入り。61鍵で音色を変える役割のストップは7つ。足踏みペダルの装飾や、華美ではないが本体の彫刻が美しい。今回の修復で製造番号から1906(明治39)年頃のものと推定された。

 幸さんの孫で名古屋市在住のジャズベース奏者、吉岡直樹さん(47)によると、父が経営していた吉岡写真館(函館市本町)=21年に事業承継=で私財を整理する中でオルガンが見つかった。20年12月に道教育大名誉教授の佐々木茂さん(77)に相談し、今回の演奏会に出演する弘前昇天教会(青森県弘前市)のオルガン奏者、植木明美さんの紹介を受けた。

 植木さんの師で、オルガン研究の第一人者で立教女学院短大名誉教授の佐藤泰平氏=仙台市在住=は同短大で発表した論文「日本の古いリードオルガン」(94年)で、生前の幸さんにオルガンの由来を聞き取っていた。

■戦時下 教会の窮状救う

 幸さんは函館高等女学校(現函館西高)時代に聖ヨハネ教会の「宣教師が持ってきたオルガン」の音色に魅せられ、遅くとも昭和初期には教会のオルガニストとなった。敵性宗教と見なされ、信仰をつなぐことも困難だった戦時下には教会の財政がひっ迫。当時の司祭がオルガン売却を決断した際に幸さんが引き取り、論文には「大変な苦労をして貯めた大枚23円で譲り受けた」とあった。

 直樹さんが発見した際、オルガンは要の風箱に穴が開き、ペダルのベルトは切れ、か細い音しか鳴らない状態だったが、「私も音楽をやっているので楽器を捨てるという選択肢がなかった」とし、修復を決断。22年春に和久井輝夫氏(長野県須坂市)の工房に依頼した。分解中、内部に「昭和20年8月10日 函館聖公会から27円で譲り受けた」ことが書かれているのが見つかり、金額の差異はあるが論文での幸さんの発言を裏付けた。

 修復は7月に終わり、演奏会を控えて同教会の聖堂に運ばれた。12日は植木さんがオルガンの音色に合わせた楽曲を演奏する。教会のオルガン奏者、丸山悦子さん(66)は「『ようこそ、お帰り』という思い。100年前の音色が聴けることはなんてラッキーなことでしょう」と喜ぶ。

 直樹さんは「修復はいろいろな方の力添えがあってのこと。オルガンには祖母の思いもあるでしょうし、(教会でのお披露目は)縁を感じます」と話している。演奏会後の活用は未定だが、楽器としての役割を大切にしながら保存できる方法を模索している。

 聖堂コンサートは午後1時半開場、同2時開演。前売り1000円(当日200円増)。問い合わせはメール(nskk.hakodate.stjohn@gmail.com)へ。

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