画家ビン・カシワさん故郷に眠る 釧路思い最期は両親の元へ【釧路市】
メルヘン調の空想の世界が広がる絵で国内外に根強いファンがいる、釧路市の画家ビン・カシワ(柏崎敏一)さんが9月6日、79歳で亡くなった。若い頃釧路を飛び出しフランス・パリを拠点に活躍したビンさんだが、40歳になって故郷に戻り、釧路で絵を描き続けた。四十九日の今月21日、遺言に従い、遺骨は両親の間に納められた。
ビンさんは1944年、樺太で父留吉さん、母ヨシさんの間に生まれ、両親の故郷秋田に引き揚げた後、釧路へ移った。旧旭小、共栄中、釧路商業高で学んだが、子供の頃は特別絵に力を入れてはいなかったという。高校卒業後は釧路市内の自動車販売会社で営業マンとして働いたが、「釧路は何もない。つまらない」との思いから上京。役者やウエーターなどさまざまな仕事を経験したが、勤めていたホテルの研修でデンマークに派遣されたままヨーロッパにとどまった。
転機となったのは71年の夏、観光で訪れたパリで盗難に遭ったこと。生活資金を稼ぐために描き始めた絵が次第に売れるようになり、やがてナイーフ派の画家として認められ、世界各地で個展を開催するまでになる。
日本でもNHK「フランス語講座」のテキストの表紙に採用されたことで人気を集め、企業のポスター原画制作などの仕事も増えた。
売れっ子作家となったビンさんだったが、ある時、ふっと故郷釧路や両親への思いが強くなり、無性に帰りたくなったという。そして84年に帰国し、釧路市内に自宅兼アトリエを構えた。それからは道東の三つの観光協会が共同で制作したポスターや、釧路市の合併を記念した「ニュー・パラダイス・クシロ」など、釧路や道内の絵を手掛けることも多くなった。
絵が高額で取引されたバブルの時代が終わると、ビンさんは一人で道内を車で回り、個展を開いた。150円のポストカードを何十分も迷って買う女の子の姿に「お金ではないものを気付かされた」と長男の晃さん(46)に語ったという。晃さんは「釧路が嫌いで飛び出したが、最期はきゅっと小さくなり、両親の元に収まった」とビンさんに思いをはせる。
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