先祖眠る島に元島民ら祈り 洋上慰霊始まる【根室】
元島民や後継者が日ロ中間ラインの洋上から先祖を供養する「洋上慰霊」が28日、根室港を拠点に始まった。78年前のこの日は旧ソ連軍の北方領土侵攻が始まった日で、元島民や後継者44人を含む68人がチャーター船「えとぴりか」(1124㌧)で歯舞コースの慰霊に向かった。あいにくの霧で島影は確認できなかったというが、4世代で乗船した元島民は「島は見えなかったが意義深いものになった」と話した。(山本繁寿)
千島歯舞諸島居住者連盟(略称・千島連盟)の松本侑三理事長(82)は出発式で「洋上慰霊の実施は国内外に北方領土問題を伝える最大の機会。しかも旧ソ連が北方領土侵攻を開始したその日に洋上慰霊が行われることが意義深い」と述べ、船に乗り込んだ。
初日は歯舞群島コースで、当初は納沙布岬を超えて太平洋側までをコースとしていたが、台風10号の影響が出始めているということでコースを短縮。慰霊式は納沙布岬の北3・5㌔オホーツク海側の沖合で実施した。甲板で行った慰霊式では、写真や供物を添えた遺族が手を合わせた。
根室市在住の得能宏さん(89)=色丹島出身=は、愛知県にいる次男(59)と24歳から17歳の3世孫世代、5歳と1歳の4世ひ孫世代計9人で参加した。下船後「一番下のひ孫は祖父から数えて6代目になるが、4世代で参加できたことは意義深く、今分からなくても10年後、20年後必ず後継者になってくれると期待している」と振り返った。
厚岸町から参加した志発島出身の畠山竹士さん(87)は「兄と姉が眠っている。今回が最後と思い参加した。島に行ってお参りしたかった」、根室市の木村芳勝さん(88)=志発島出身=は「島には姉2人と弟がいる。弟たちに『来たぞ』と心の中で呼び掛けながら献花した」と話していた。
北方領土の元島民らが四島に眠る先祖の霊を慰める北方墓参をはじめとした四島交流事業は、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で実施が見通せない。このため、元島民でつくる千島連盟や道は昨年に続いて洋上慰霊の実施を決め、この日初回を迎えた。9月30日までに計6回、延べ400人が参加する。
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