建物疎開の記憶つなぐために 函館空襲を記録する会、情報提供呼び掛け【函館】
函館空襲を記録する会(浅利政俊代表)は函館市内で1945(昭和20)年に行われた「建物疎開」の情報提供を呼び掛けている。空襲に備えて延焼防止を目的に強制的に建物を取り壊して空き地をつくる施策で終戦間際まで続いた。実施戸数は不明だが、戦後は復員者や樺太などからの引き揚げもあって人口が急増し、深刻な住宅不足を招いた。
建物疎開は防空法に基づき全国の都市部で行われた。函館では45年4月下旬に第一次疎開の実施を決定。7月14、15の両日に米空母艦載機による函館空襲で現在の弥生町周辺約400戸を焼いて死傷者を出したことで、8月に入って第二次、第三次の疎開方針が決まり、終戦間際まで建物の取り壊しが続いた。作業には市内の学生も動員された(広瀬竜二著 「いくさの陰に 大戦下の遺愛女学校の生活」など)。
空襲時に米軍機が撮影した写真からは建物疎開の一端を読み解くことができる。写真は上部が函館港側、下部の左右に走る道路が電車道路で、白く大きな建物は新川国民学校、その左上角は戦後、連合国軍が接収した共愛会館。現在は函館中央郵便局がある場所で、若松広路と函館地裁前に至る広小路の交差点は円形に整備されている(写真の緑線)。34(同9)年3月の函館大火を教訓とした防火思想を反映し、同年6月には計画された道路だ。
高砂通(公園通2号)を挟んで函館港側は大火で焼失しなかった地域だが、若松広路と同じ幅員で建物が間引かれた形跡がある。さらに大縄町方向に幅広の道路となるよう建物が壊されている。この写真や戦中、戦後に旧陸軍や米軍によって撮影された市街地の空中写真を見比べると、現在の八幡通が建物疎開の産物であることをうかがい知ることができる(写真の青線)。
建物疎開の方針には、鉄筋コンクリート造の建物など、堅牢施設の周囲の木造建築物も除去するよう盛り込まれた。戦後の空中写真では新川国民学校に近接し、現在のはこだて自由市場のある電車道路側は空き地、広小路沿いも不自然に建物がまばらになった場所がある。空襲から終戦までの建物疎開で間引かれた可能性がある(写真の赤線)。
建物疎開は弁天町や千歳町、大町、弥生小近くなどでも行われたという。詳細な資料はなく現在も全体像は分かっていない。「北海道新聞」(函館版、45年4月27日付など)で実施区域の町名は分かるが、対象戸数は実数を「○○」と伏せて報じている。浅利代表(93)は「函館には津軽要塞司令部があり、延焼を防ぐ目的だけではなく、敵の上陸に備えて軍が市街地で機動力を発揮できる道路をきちんとしなくてはならないと計画したのだろう」と話す。
同会は当時を知る人や親世代から受け継いだ建物疎開の記憶を残す最後の機会として情報の提供を呼び掛けている。問い合わせは浅利代表(0138・65・7354)へ。
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