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函館新聞

北洋の象徴、閉館へ 大手町のニチロビル 加藤さん「最後見届ける」【函館】

ニチロビルの思い出を語る加藤清郎さん(11日)

 北洋漁業をけん引した旧日魯漁業(現マルハニチロ)の拠点として昭和初期に建てられた函館市大手町のニチロビルディングが間もなく建物としての役目を終える。1号館の完成から94年の歳月に経済の中心、文化芸術の発進拠点とさまざまな顔を持ち続けた。元ニチロ取締役の加藤清郎さん(89)は「ニチロマンの一人として万感の思いを込めてビルの最後を見届けたい」と話している。

 ビルは1929(昭和4)年に1号館ができ、現存する2号館は34(同9)年、3号館は38(同13)年の完成。2号館と同じ34年生まれの加藤さんは、父方の祖母が堤清六の妹、母方の祖母が平塚常次郎の妹と、創業者の名前と両家の血筋を受け継ぎ、父の俊治さんも同社社員だった。

 函館中部高卒業までは函館で暮らしたが、戦争を挟んだ激動の時代。同社にとっても終戦間際の旧ソ連侵攻で北千島、樺太などで約2400人(「日魯漁業経営史」による)もの社員がシベリアに抑留された。公職追放にあった平塚が社長に復帰し、北洋漁業が再開された52年までは試練の時が続いた。

 加藤さんには父を迎えにビルに足を運んだ思い出があり、「半ドン(午後の勤務が休み)の土曜日には妹を連れて父をビルに迎えに行き、映画に連れて行ってもらった」と懐かしむ。

 弘前大学卒業後、北洋漁業が全盛へと向かう58年に入社し、東京勤務が続いた。若手時代には函館から出港した北洋船団に物資を届ける仲積船に乗船。母船に荷物を届け、代わりに製品(缶詰)を受け取った。「父からはよく勉強してこいと送り出された。寝ずの仕事の船上を見ることができたのはいい経験だった」とし、「あけぼの印」の缶詰でも「母船もの」と呼ばれた製品のおいしさが忘れられないという。

 ビルの1号館は取り壊され、同社などが出資して72年に函館国際ホテルが開業。91年にニチロを取締役東京支社長で退任した加藤さんは92年には同ホテルの社長に就任し、リニューアル事業をけん引した。現在、ホテルの経営はニチロの手を離れたが、かつての1号館にあったサケやカニのステンドグラスが埋め込まれている。加藤さんは「ニチロビルは堤清六が全知を巡らせて作らせた。各地にあった工場が素晴らしい設備を備えていたように建物に糸目を付けないのは堤、平塚の教え。ホテルの西館を建てる際もその考えが生きた」と話す。

 北洋漁業と函館の発展が刻まれたニチロビル。3号館の講堂はかつて、社長による訓示が行われ、戦中は社員の出征式が開かれた。終戦後は進駐軍が接収した時期もあり、函館でも数少なくなった戦争遺構の側面がある。53年にHBC函館放送局が開局すると、講堂はHBCホールとして市民会館開館(70年)まで函館随一の文化芸術の発信拠点でもあり、同ホールで「初舞台を踏んだ」と思い出を語る市民は少なくない。2号館1階で10年間入居し、最後のテナントとなる「カフェ&デリ マルセン」は22日に最終営業を迎える。

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